記事のポイント
Anthropic元研究者の警告をめぐり、Xでは「AI規制を後押しする政治的PRではないか」との疑惑が拡散
ダリオ・アモデイCEOもAI開発のペース調整を提案。第三者による継続的な安全評価を導入へ
OpenAIは2026年のIPOを見送り、Anthropicは上場準備を継続。AIの安全性がIPOと企業評価の論点に
(本記事は公開情報に基づく分析および筆者の見解であり、正確性や完全性を保証するものではありません。特定銘柄の売買を助言・推奨するものでもなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。)Xで、AI業界をめぐる一つの投稿が話題になっています。
発端は、Anthropicの研究者ジェイコブ・コクソン氏が9月8日に退職してXに投稿した内容です。コクソン氏は同ポストで、OpenAIとAnthropicが「自己改善する超知能」に向けて競争し、安全性より開発競争を優先していると警告しました。
これに対し、米Capital Research Centerの調査員パーカー・セイヤー氏は、本人のXでの発信歴がほとんどなかったことや、ウォール・ストリート・ジャーナルが本人の投稿より先に退職を報じていたことなどを挙げ、「民主党のAI規制を後押しするPR作戦ではないか」と主張。イーロン・マスク氏も「仕組まれたように見える」と反応しました(※1)。
ただし、組織的な政治キャンペーンだったことを示す証拠は確認されていません。
「政治キャンペーンでは?」Xで疑惑が拡散
今回話題となっているコクソン氏は27歳のAI研究者。OpenAIとAnthropicで約3年間、AIモデルの事前学習に携わってきました。ワシントン・ポストによると、OpenAIからAnthropicへ移ったのは今年5月です(※1)。
この投稿が急速に広がると、その拡散の速度にも注目が集まりました。セイヤー氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルが本人の投稿より先に退職を報じたことや、普段ほとんど発信していなかったアカウントから突然大きな投稿が出たことを理由に、事前にPRが組まれていた可能性を指摘しました。
マスク氏も「Seems like a setup(仕組まれたように見える)」と投稿。ワシントン・ポストも、コクソン氏をAI規制のための「仕込み」だとする批判が右派を中心に出た一方、その主張を裏付ける証拠はほとんどないと報じています(※1)。
政治家も反応しました。民主党と会派を組む無所属のバーニー・サンダース上院議員は、コクソン氏の警告を支持しています(※2)。
ただ、サンダース氏と民主党のグレッグ・カサール下院議員は、コクソン氏が辞職する5日前の9月3日に、超知能の開発・配備を禁止し、高度AI開発を一時停止する法案構想をすでに発表していました(※3)。
CEO本人も「AI開発のペースを落とすべき」と主張
「政治的なPRだったのではないか」という疑惑とは別に、コクソン氏が訴えた安全リスクについては、Anthropicの経営陣も近い問題意識を示しています。
投稿から数日後、ダリオ・アモデイCEOは「We Must Pace the Frontier」という記事を公開。AI開発そのものを止めるのではなく、モデルの能力向上を少し遅らせ、安全対策や検証が追いつく時間を確保すべきだと主張しました(※4)。
背景にあるのは、AIが次のAI開発を手伝う「再帰的自己改善」の加速や、OpenAIのサイバー評価でAIエージェントが想定外の行動を取った事例です。能力だけが急速に高まれば、現在は小さな事故でも、将来は大きな被害につながる可能性があると警告しています。
対策として、Anthropicは外部の第三者評価者に継続的なアクセスを与え、安全対策の実施状況やモデルの挙動を検証してもらう方針を示しました。その後はAI企業間、さらに国家間で開発ペースや安全基準を協調する構想です(※4)。
コクソン氏の主張が正しいと証明されたわけではありません。ただ、「AIの進歩に安全対策が追いつかないのではないか」という点では、アモデイCEO自身も近い問題意識を示しています。
そしてAnthropicは、まさにIPOの準備を進めている最中です。
IPO前に問われる「AIの安全性」
Anthropicは6月、IPOに向けたS-1登録届出書案をSECへ非公開提出しました(※5)。9月14日のフィナンシャル・タイムズによると、Nasdaq上場を目指し、IPO時には約2兆ドルの評価額も想定されています(※6)。
一方、OpenAIのサム・アルトマンCEOは9月12日、2026年中にはIPOしないと明言しました。安全性を巡る現在の状況を考えると、今は上場に適した時期ではないと説明しています(※7)。
AI企業は、高性能なモデルを早く出すほど成長期待が高まります。ただ、危険な能力が見つかれば、安全のために開発を遅らせる必要があります。
AnthropicがIPOへ進むなら問われるのは、成長を求められる中でも、必要なときに本当に減速できるのかという点です。
アモデイ氏が提案する第三者評価も、そのための仕組みの一つです。外部の評価者にもモデルを継続的に検証してもらい、問題があれば開発速度を調整できる体制を作ろうとしています(※4)。
AIの安全性は、研究上の問題だけでなく、上場前に投資家へ説明すべき経営課題になりつつあります。
参考文献
(※1)ワシントン・ポスト「AI researcher who warned of ‘disaster’ is now a target of the right」2026年9月10日
https://www.washingtonpost.com/technology/2026/09/10/ai-researcher-who-warned-disaster-is-now-target-right/
(※2)AP通信「Anthropic researcher resigns with warning about the dangers of AI development」2026年9月9日
https://apnews.com/article/2ed549e07f2f941600a135070487d83d
(※3)バーニー・サンダース上院議員事務所「Sanders, Casar to Introduce Legislation to Ban Artificial Superintelligence and Temporarily Pause Advanced AI Development」2026年9月3日
https://www.sanders.senate.gov/press-releases/news-sanders-casar-introduce-legislation-to-ban-artificial-superintelligence-and-temporarily-pause-advanced-ai-development/
(※4)ダリオ・アモデイ「We Must Pace the Frontier」2026年9月
https://darioamodei.com/post/we-must-pace-the-frontier
(※5)Anthropic「Anthropic confidentially submits draft S-1 to the SEC」2026年6月1日
https://www.anthropic.com/news/confidential-draft-s1-sec
(※6)フィナンシャル・タイムズ「Anthropic tells investors it will be profitable for second straight quarter」2026年9月14日
https://www.ft.com/content/4564e6a5-69e9-40a6-bf0f-a888f2f4f002
(※7)Fortune「Sam Altman confirms OpenAI won’t go public this year」2026年9月12日
https://fortune.com/2026/09/12/sam-altman-openai-ipo-delay-ill-advised-moment-safety-concerns/
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