次のNVIDIA?Broadcomに注目集まる
AI相場で次に問われているのは、AIをいかに安く大量に動かすかです。その答えの一つとして注目されているのが、BroadcomのAI専用チップASIC。GPU一強に見える市場の裏側で、巨大AI企業は自前の専用チップへ動き始めています。
(本記事は、公開情報に基づく分析および筆者の見解を示したものであり、その正確性や完全性を保証するものではありません。株価や企業の将来を保証せず、また特定の政治的立場や政策を支持・推奨する意図も一切ありません。投資判断や経済的判断は、ご自身の責任で行ってください。)ポイント
BroadcomのAI半導体売上はFY2026 Q1で84億ドル、Q2は107億ドル見通し。
OpenAIやAnthropic、GoogleなどがBroadcomとAI専用チップ開発を進めている。
焦点は、NVIDIAの代替ではなく、AIを安く大量に動かすASIC需要がどれだけ売上化するか。
目次
ASICとは何か ― GPUより安い?
ASIC需要はどれだけ伸びそう?
主役交代というより「役割分担」 ― NVIDIAとBroadcom
投資家として見るべきポイント
【補足】 AnthropicはSpaceXとデータセンターを契約
ASICとは何か ― GPUより安い?
AI相場の主役はNVIDIA($NVDA)一強ではなくなりつつあります。投資家がいま注目しているのが、半導体大手Broadcom($AVGO)が手がける「ASIC(特定用途向け集積回路)」です。ASICは、用途を絞って設計することで、汎用GPUよりもはるかに安く・少ない電力で同じ処理を回せる専用チップです。投資家の最大の関心は、このカスタムASIC需要がどれだけ速く立ち上がるかにあります。
AIが日常サービスへ広がるほど、その裏側で動く計算量は膨らみます。ChatGPTやClaudeに質問するたび、データセンターでは大量のチップが稼働しています。これまでその中心はNVIDIAのGPUでした。GPUは「何でもこなせる万能選手」ですが、その分高価で、電力も多く消費します。一方ASICは「特定の仕事に特化した職人」のような存在。決まった処理を繰り返すなら、こちらの方が圧倒的に効率的です。
いまAIインフラ投資は、「とにかくGPUを買う」段階から、「自社サービスに合わせて専用チップを作る」段階へと移り始めています。
ASIC需要はどれだけ伸びそう?
投資家が最も知りたいのは、このASICの需要です。
前回のBroadcom決算で最も重要だったのは、AI向け需要の強さです。FY2026第1四半期の売上は前年同期比29%増の193億ドル、非GAAP EPSは2.05ドルとなり、市場予想を上回りました。特に目立ったのが半導体部門で、売上は前年同期比52%増の125億ドル。
その中でもAI関連売上は106%増の84億ドルと、2倍以上に伸びました。(*1)一方、VMwareを含むインフラソフトウェア部門は68億ドルで、安定した収益基盤として機能しています。
さらに注目されているのが、受注残高(バックログ)です。Tom’s Hardwareによると、Broadcomは約730億ドルのAI受注残高を開示しており、CEOのホック・タン氏は「2027年のAIチップ売上が1000億ドルを上回る道筋が見えている」と語っています(*2、*3)。Broadcomはその専用チップの設計・供給に加え、大規模AIクラスターをつなぐネットワーク製品でも需要を取り込んでいます。
また、会社は次の第2四半期について、売上220億ドル、AI半導体売上107億ドルを見込んでいます。AI半導体売上は前四半期比でも約27%増える計算で、需要の加速が続いていることがわかります。
Broadcomの前回決算は、AIを安く大量に動かすためにASICとネットワークの重要性が増していることを裏づける内容だったと言えます。今後の焦点は、その需要がどのペースで実際の売上に変わるのか、そしてBroadcomが製造能力や顧客の投資計画に遅れなく対応できるのか、という点にあります。
主役交代というより「役割分担」 ― NVIDIAとBroadcom
ASICが伸びるからといって、BroadcomがNVIDIAのGPUをすぐ置き換えるわけではありません。NVIDIAはGPUに加え、開発基盤のCUDA、ネットワーク、開発者コミュニティまで含めた強力なエコシステムを持ち、AI開発の自由度という点では依然として圧倒的です。
Broadcomの役割は別の場所にあります。同社はGoogleやOpenAIのような企業が考える専用チップを、実際に量産できる形へ落とし込む会社です。米・トムズ ハードウェアは、Broadcomを「カスタムAI ASICエコシステムの中核を担う設計企業」と位置づけ、顧客と共同設計したチップをTSMCの先端パッケージ技術(SoIC/CoWoS)で製造できる形に仕上げていると伝えています(*3)。つまり、NVIDIAが開発の中心なら、Broadcomは大規模運用のコストを下げる側にいます。
NVIDIAのGPUコストを避けるため、Broadcomと契約をし、企業が自前でAIチップを作ろうとする波がきています。
大口顧客の「AIチップ自前化」
先ほど触れた需要の加速を裏づけるのが、顧客の顔ぶれです。以下、並べてみましょう。
OpenAIとは、OpenAIが設計する10ギガワット規模のカスタムAIアクセラレータを共同展開する計画で、2026年後半に始まり2029年末までの完了を目指す(*4)。
Googleとは、次世代AIラック向けのカスタムAIチップ(TPU)を2031年まで供給する長期契約を結ぶ(*5)。
AnthropicもGoogleとBroadcomを通じ、約3.5ギガワット規模の次世代TPU容量を2027年から使う予定(*6)。
MetaもBroadcomとの自社チップ「MTIA」開発を2029年まで延長し、まず1ギガワット超の容量を確保(*7)。
これだけの複数の巨大AI企業が同時に専用チップへ動いている事実は、“脱GPU”の流れが、業界全体の構造変化として広がってきていること表していると言えます。モデルが賢くなるほど裏側の計算は膨らみ、各社はNVIDIA製品を使い続けながらも、自社に最適化したASICを併せ持とうとしているのです。
投資家として見るべきポイント
土台となる足元の数字を再度確認しておきましょう。FY2026 Q1は全体売上が193億ドル(前年同期比29%増)、調整後EBITDAは売上の68%にあたる131億ドルでした。会社は第2四半期の売上を220億ドルと見込んでいます(*1)。収益性は高く、AI需要がこの伸びを牽引しています。
今後、積み上がった受注残高がどのペースで売上に変わっていくかが最大のチェックポイントになります。
一方でリスクもあります。ASICは顧客ごとに作るため、大口顧客への依存度が高くなりがちです。データセンター建設、電力確保、先端パッケージやTSMCの製造能力に遅れが出れば、売上計上の時期がずれる可能性もあります。
さらに株価には、すでに強い期待が織り込まれています。需要の加速が数字として確認できない局面では、株価が大きく揺れることもあり得ます。
今週6月3日はBroadcomの決算発表です。5月米雇用統計の発表も5日にあるため、市場が大きく注目する一週間となります。
【補足】 AnthropicはSpaceXとデータセンターを契約
AnthropicとSpaceXの契約も、今回のBroadcomと同じ流れで見ることができます。WIREDによれば、AnthropicはSpaceXに年150億ドル規模を支払い、ColossusとColossus IIの計算インフラを使う契約を結んだと報じられています(*8)。この施設は、もともとxAIのGrok向けに整備された巨大なAIデータセンターです。SpaceXは、自社グループのAI開発に使うための計算能力を持ちながら、その一部を外部にも貸し出す形を取りました。
自社だけですべての計算インフラを用意するのは簡単ではなく、AnthropicはClaudeの利用拡大に向けて必要な計算資源を確保しようとしているわけです。
ロイターによると、マスク氏はこの契約について、まずは180日間のリースで、その後は双方が90日前に通知すれば解約できると説明しています(*9)。
AIを安く大量に動かすために、企業が専用チップやデータセンターへ急いで向かっていることは確かです。BroadcomのASIC需要も、SpaceXの計算資源契約も、同じ大きな流れの中にあると言えます。
参考文献
(*1)Broadcom, “Broadcom Inc. Announces First Quarter Fiscal Year 2026 Financial Results and Quarterly Dividend”
(*2)Reuters, “Broadcom sees over $100 billion in AI chip sales by 2027 on robust custom chip demand”
(*3)Tom’s Hardware, “The custom AI ASIC state of play (May 2026) — Broadcom deals, Google TPUs, Meta MTIA & beyond”
(*4)OpenAI, “OpenAI and Broadcom announce strategic collaboration to deploy 10 gigawatts of OpenAI-designed AI accelerators”
https://openai.com/index/openai-and-broadcom-announce-strategic-collaboration/
(*5)Reuters, “Broadcom signs long-term deal to develop Google’s custom AI chips”
(*6)Anthropic, “Anthropic expands partnership with Google and Broadcom for multiple gigawatts of next-generation compute”
https://www.anthropic.com/news/google-broadcom-partnership-compute
(*7)Reuters, “Meta extends custom chips deal with Broadcom to power AI ambitions”
https://www.reuters.com/business/meta-inks-deal-with-broadcom-custom-ai-chips-2026-04-14/
(*8)WIRED, “SpaceX IPO Filing Reveals Anthropic Is Paying $15 Billion a Year to Access Its Data Centers”
https://www.wired.com/story/spacex-ipo-anthropic-compute-finances-risks/
(*9)Reuters, “Musk says SpaceX agreed only six-month Colossus AI lease to Anthropic”
https://www.reuters.com/technology/musk-says-spacex-did-not-commit-long-term-colossus-lease-with-anthropic-2026-05-28/
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