先週19日、モデルナ( $MRNA )の株価が急騰しました。きっかけは、メルクと共同開発する「患者ごとに作るmRNAがん治療」です。
皮膚がんの一種である悪性黒色腫の患者1,137人を対象にした第3相試験で、現在使われているがん治療薬「キイトルーダ」だけを使った場合より、がんの再発または死亡までの期間と、遠くの臓器への転移または死亡までの期間の両方で改善が確認されました(※1)。
コロナワクチンで知られたモデルナのmRNA技術が、がん治療でも大規模な第3相試験で結果を出した。今回の株価急騰は、その期待が一気に高まった動きといえます。
(本記事は公開情報に基づく分析および筆者の見解であり、正確性や完全性を保証するものではありません。特定銘柄の売買を助言・推奨するものでもなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。)記事のポイント
1,137人を対象にした第3相試験で、キイトルーダ単独より良い結果
患者のがんを調べ、その人に合わせたmRNA治療を作る
先行する第2b相では、再発または死亡するリスクを49%低減
8月19日の発表後、モデルナ株は急騰し、同日の終値は174.38ドルとなりました。前日の62.96ドルから約177%上昇しています(※2)。
Moderna( $MRNA )とMerk( $MRK )の過去5日間の株価。出所:Woodstock(※3)
何が発表されたのか
8月19日、モデルナとメルクは、共同開発中の「インティスメラン・オートジーン(mRNA-4157/V940)」について、第3相試験の主要目標を達成したと発表しました(※1)。
対象は、手術で悪性黒色腫を取り除いた患者1,137人です。悪性黒色腫は「メラノーマ」とも呼ばれる皮膚がんの一種です。
患者は、インティスメラン・オートジーンとキイトルーダを一緒に使うグループと、キイトルーダだけを使うグループに分けられました。
その結果、mRNA治療を加えたグループの方が、がんが再発せずに過ごせる期間と、遠くの臓器へ転移せずに過ごせる期間の両方でポジティブな結果を得られました(※1)。
簡単にいうと、mRNA治療を加えたグループでは、キイトルーダ単独よりも、再発や遠隔転移に関する成績が有意に改善したということです。
しかも今回は、薬の承認に向けた大きな関門となる第3相試験です。第3相試験は、より多くの患者を対象に、治療の効果や安全性を本格的に確かめる段階です。つまり、小規模な研究で「効きそうだった」という段階から、実用化に向けて一段進んだことになります。
ただし、今回公表されたのは結果の概要です。第3相で再発リスクが具体的に何%下がったのかなど、詳しい数字はまだ出ていません。患者が最終的にどれだけ長く生きられたかを見る評価も続いています(※1)。
患者ごとに作るmRNAがん治療
この治療の特徴は、患者ごとに中身を変えて作ることです。
個別化mRNAがん治療薬「インティスメラン・オートジーン」の第3相試験結果と、キイトルーダとの併用による治療の仕組みをまとめた図解。 / AIにより生成
まず、組み合わせるキイトルーダは、患者自身の免疫ががんを攻撃しやすくする薬です。
人間の免疫には、働きすぎを防ぐための「ブレーキ」のような仕組みがあります。がん細胞はこの仕組みを利用し、免疫から攻撃されにくくなることがあります。
キイトルーダはそのブレーキを弱め、免疫細胞が再びがんを攻撃しやすい状態にします(※4)。
そこに加えるのが、モデルナの個別化mRNAがん治療です。
まず患者のがん細胞を調べ、正常な細胞にはない、その人のがん特有の遺伝子変異を探します。そこから免疫の目印になりそうなものを選び、その情報をmRNAに載せます。1人分のmRNAには最大34種類の目印を組み込める設計です(※5)。
投与されたmRNAは、免疫に「この特徴を持つ細胞を狙ってください」と教える役割をします。
キイトルーダが免疫のブレーキを外す薬なら、mRNA治療は攻撃する相手の特徴を教える役割です。
AさんとBさんでは、がんの遺伝子変異が違います。そのため、使うmRNAの中身も一人ひとり違います。既製品を全員に同じように使うのではなく、患者の腫瘍データをもとに専用の治療を作る。いわば「オーダーメイド型」のがん治療です。
157人から1,137人へ
実は、この治療は以前から期待されていました。
先に行われた第2b相試験では157人の患者を対象に、同じ組み合わせをキイトルーダ単独と比較しています。
約5年間追跡した結果、mRNA治療を加えたグループでは、がんが再発する、または死亡するリスクが49%低くなりました。遠くの臓器へ転移する、または死亡するリスクも59%低下しています(※5)。
ここで「49%」は、49%の患者が治ったという意味ではありません。試験期間中に再発または死亡するリスクが、キイトルーダだけを使った人たちより49%低かった、という比較です。
ただ、第2b相の参加者は157人でした。良い数字でも、「もっと多くの患者で同じような結果になるのか」は残ります。
今回の第3相は1,137人です。患者数を7倍以上に増やしても、再発と遠隔転移に関する2つの目標を達成しました。
一方、まだ承認された薬ではありません。両社は今後、詳しいデータを医学会で発表し、各国の規制当局と承認申請について協議する予定です(※1)。
なぜモデルナ株がここまで上がったのか
モデルナはコロナワクチンで急成長した会社です。その反面、コロナ需要が落ち着いた後は「次に何で成長するのか」が長く問われてきました。
今回、その候補だった個別化mRNAがん治療が、第3相で主要目標を達成しました。
ロイターは、この治療がmRNA技術をコロナ以外でも通用させられるかを示す材料になったと報じています。一方、株価の上昇幅を大きくした要因の一つが空売りの買い戻しです。モデルナ株は「株価が下がる」と予想して売られていた株が多く、急騰を受けて買い戻しが相次ぎ、上昇がさらに加速したとみられます(※2)。
しかも、開発対象は悪性黒色腫だけではありません。モデルナとメルクは、肺がん、膀胱がん、腎臓がんなどでも同じ治療法の試験を進めています(※5)。
もし別のがんでも効果が確認されれば、mRNAは「コロナワクチンの技術」から、複数のがんに使える治療技術へ広がる可能性があります。
とはいえ、今はまだ期待が先に動いている段階です。この治療から商業的な売上が立っているわけではなく、第3相の詳しい効果の大きさもまだ分かっていません。
まず見たいのは、第3相の具体的な数字です。再発や転移のリスクが実際にどのくらい下がったのか。その次が、承認申請の時期と、他のがんでも同じ結果を出せるかです。
モデルナがコロナ後の次の柱として育ててきたmRNAがん治療が、1,137人規模の第3相で大きな一歩を進めた。その期待が、一気に株価へ反映されたと見るのが分かりやすいでしょう。
参考文献
(※1)Merck / Moderna “Merck and Moderna Announce Phase 3 INTerpath-001 Trial of Intismeran Autogene Plus KEYTRUDA® Met Endpoints of Recurrence-Free Survival (RFS) and Distant Metastasis-Free Survival (DMFS) in Patients With Completely Resected Stage IIB-IV Melanoma” 2026年8月19日
https://www.businesswire.com/news/home/20260819675697/en/
(※2)ロイター “Moderna shares double as cancer vaccine data rekindles investor hopes” 2026年8月19日
https://www.investing.com/news/stock-market-news/moderna-shares-double-as-cancer-vaccine-data-rekindles-investor-hopes-4867950
(※3)Woodstock 米国株投資アプリ「Moderna( $MRNA)」「Merk( $MRK )」株価画面、2026年8月
https://woodstock.co/ja/stocks
(※4)MSD Connect「キイトルーダ®の作用機序」
https://www.msdconnect.jp/products/keytruda/info/action-mechanism/
(※5)Merck / Moderna “Moderna and Merck Present 5-Year Data for Intismeran Autogene in Combination With KEYTRUDA® in Patients With High-Risk Stage III/IV Melanoma Following Complete Resection at the 2026 ASCO Annual Meeting” 2026年6月1日
https://www.merck.com/news/moderna-and-merck-present-5-year-data-for-intismeran-autogene-in-combination-with-keytruda-pembrolizumab-in-patients-with-high-risk-stage-iii-iv-melanoma-following-complete-resection-at-the-20/
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