AMD、データセンター向けラック型AI設計「Helios」を発表 株価は下落
AMDはGPUやCPU、ネットワークをラック単位で統合するシステム設計「Helios」を発表しました。メモリ容量や推論コストでNVIDIAの次世代機に対抗し、OpenAIなど3社との導入計画は最大14GWに達します。一方、発表後の株価は2日続けて下落し、市場の評価は分かれました。
(本記事は公開情報に基づく分析および筆者の見解であり、正確性や完全性を保証するものではありません。特定銘柄の売買を助言・推奨するものでもなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。)AMDがラック型AIの設計「Helios」を発表。メモリ容量はVera Rubin NVL72の約1.5倍
OpenAI、Meta、Anthropicとの公表済み計画は合計最大14ギガワット
株価下落には半導体株全体の下げが重なり、期待先行の反動も考えられる
2026年7月23日、AMDがサンフランシスコで年次イベント「Advancing AI 2026」を開きました。 主役は、データセンター向けにラック1本をまるごと設計した「Helios(ヘリオス)」です。 AMDは、メモリ容量と推論時のコスト効率で、エヌビディアの次世代機「Vera Rubin NVL72」を上回ると説明(※1)。 ところが株価は、発表当日と翌日で2日続けて下げました(※6)。
競争の単位が「チップ」から「ラック」へ
これまでAMDがエヌビディアと比べられるとき、話題の中心はGPU単体の性能でした。 しかし、今回発表されたHeliosは、GPU、CPU、ネットワークをラックごと組み合わせ、1台の大きなコンピューターのように動かすものです。
ラックとはデータセンターに並ぶ、サーバーを収める棚のことです。 棚の中の多数のGPUを高速な通信でつなぎ、全体を一つの計算機として動かします。
Helios(ヘリオス)という設計図(アーキテクチャ)
Heliosは、AMDが直接売る完成品ではありません。 HPEやLenovoなどのパートナーが自社製品を作るための設計図で、量産導入は2026年後半に始まる見通しです(※2)。
標準構成では、AIアクセラレーター「Instinct MI455X」を72基、第6世代EPYC「Venice」を18基積みます。 ラック全体のHBM4*は31テラバイト、FP4*での理論上のピーク性能は2.9エクサフロップスです(※1)。 ただし理論値なので、実際の速度はモデルやソフトウェアで大きく変わります。
*HBM4(High Bandwidth Memory 4): AIの学習や推論(計算)に使われる超高速・広帯域な次世代メモリの規格。GPUのすぐ横に積層して配置されるため、膨大なデータを一瞬で処理・やり取りできます。
*FP4 : AIの計算データを極限まで軽く(4ビットに)して、処理スピードを劇的に速くする次世代の計算方式
エヌビディアとの比較
最も分かりやすい差は、メモリ容量です。 ラック全体では、Heliosの31テラバイトに対してVera Rubin NVL72が20.7テラバイト。 GPU単体でも、432ギガバイトに対して288ギガバイトと、どちらもAMD側が約1.5倍でした(※2)(※4)。 作業机でいえば、広い机を用意した形です。
ただし、数字の読み方には注意も要ります。 AMDは自社試算で「1ドル当たり最大30%多くのトークンを処理できる」と主張しましたが、第三者の測定ではなく、推定値と想定価格に基づく比較です(※1)。 しかも4ビットの表現方法が両社で異なるため、数字を並べても実際にどちらが速いかは決まりません(※5)。
最大14GWの導入計画と、その中身
今回注目されたのは、実際にそれを買う顧客とその規模が明らかにされたことでした。
3社を合計すると最大14ギガワット
ギガワットは、AIチップを動かすデータセンターの規模を電力で表した単位です。 OpenAIによる6ギガワット、Metaによる最大6ギガワットに加え、AMDとAnthropicは最大2ギガワットの導入計画を共同発表しています。単純に合計すると最大14ギガワットです(※3)。
ただし、すべてが今回決まったわけではありません。 OpenAIとの契約は2025年10月、Metaとは2026年2月の発表で、今回加わったのは7月22日のAnthropicとの提携です。 納品も一度ではなく、複数年かけて段階的に進みます(※3)。
ワラントと出資という条件
この3件には、通常の製品販売とは違う仕組みが付いています。 AMDはOpenAIとMetaに、それぞれ最大1億6,000万株を取得できるワラント(新株予約権)を発行しました。 購入量や株価などの条件を満たすたび、段階的に権利が確定します。 Anthropicに対しては逆に、AMD側が最大50億ドルを出資する方針です(※3)。
需要の裏づけとしては強力です。 ただし条件を満たしてワラントが行使された場合、既存株主の持ち分が薄まる可能性があります。
それでも株価が下がった理由
発表内容だけなら、材料はそろっていました。 売られた背景には、製品とは別の事情もあります。
同じ日、半導体株がまとめて売られた
7月24日、AMD株は3.29%下げて521.95ドルとなりました。 ただし同じ日、半導体指数SOXも4.3%下落しています(※6)。 発表後には複数の証券会社が目標株価を引き上げており、内容が一様に否定されたわけではありません(※6)。
期待が先に走っていた
AMDの2026年1〜3月期のデータセンター部門売上高は58億ドルと、前年同期比57%増えています(※7)。 好材料が続いた分、期待はすでに株価に織り込まれたいた可能性があります。 内容が悪くなくても、期待を上回らなければ売りは出ます。
ソフトウェアと量産の現在地
性能表で近づいても、開発者が使う環境まで並んだわけではありません。 AMDの基盤「ROCm」は改良が進み、主要な開発環境に対応しています(※2)。 それでも、すぐ使い始められる手軽さや支援体制では、エヌビディアのCUDAが依然として強いと指摘されています(※5)。
量産の面でも、エヌビディアが先行しています。 Vera Rubinを構成する7種類のチップは3月に量産へ入り、5月末には供給網の拡大が発表されました(※4)。 スペックで追いつくことと、出荷量で追いつくことはまた別の問題です。
これから見ておきたいこと
今回の事態は、製品の完成度と短期の株価が、一致しなかった事例と言えます。 次の四半期以降、確かめたい点を挙げます。
Heliosベース製品の出荷実績:パートナーによる量産導入が計画どおり進むか
ROCmの広がり:大口顧客以外の企業にも使われ始めるか
14GWの現金化:導入計画がいつ、どのペースで売上に変わるか
筆者は、今回の株価の下げを製品への評価とは切り離して見ています。 AMDがラック単位でエヌビディアと同じ土俵に立ち、メモリ容量と推論コストで具体的な数字を出したことは、大きな前進です。 気がかりなのは、受注の形式のほうです。 ワラントと出資が条件に付いた14ギガワットは、顧客が製品力だけで選んだ純粋な需要とは意味が違います。 本当の試験は、そうした条件のない一般企業がHeliosベースのシステムを選ぶかどうかにあります。
AMDは8月4日(火)の市場終了後に決算発表予定です。どんな決算発表となるのか、注目が集まります。
参考文献
(※1)AMD “AAI 2026: AMD Delivers Full-Stack Compute for the Agentic AI Era”(Heliosの構成とスペック、コスト効率の主張)2026年7月23日 https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1294/aai-2026-amd-delivers-full-stack-compute-for-the-agentic-ai-era
(※2)AMD “AMD Helios Rackscale Solution”(リファレンス設計であること、量産導入時期、ROCmの対応環境) https://www.amd.com/en/products/rackscale-solutions/helios.html
(※3)AMD 提携リリース3件(OpenAIと6GW、Metaと最大6GW、Anthropicと最大2GW、ワラントと出資の条件)2025年10月6日、2026年2月24日、2026年7月22日 https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1260/amd-and-openai-announce-strategic-partnership-to-deploy-6-gigawatts-of-amd-gpus https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1279/amd-and-meta-announce-expanded-strategic-partnership-to-deploy-6-gigawatts-of-amd-gpus https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1292/amd-and-anthropic-announce-strategic-partnership-to-deploy-up-to-2-gigawatts-of-amd-instinct-mi450-series-gpus
(※4)NVIDIA “NVIDIA Vera Rubin Opens Agentic AI Frontier” / “NVIDIA Vera Rubin Ramps Into Full Production” / “NVIDIA Vera Rubin NVL72”(Vera Rubinの構成、仕様、量産状況)2026年3月16日、5月31日 https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-vera-rubin-platform https://nvidianews.nvidia.com/news/vera-rubin-full-production-agentic-ai-factory https://www.nvidia.com/en-us/data-center/vera-rubin-nvl72/
(※5)StorageReview “AMD MI455X and Helios: 432GB HBM4, 72-GPU Racks, and a Real Answer to Vera Rubin”(MXFP4とNVFP4の違い、ソフトウェア環境の比較)2026年7月23日 https://www.storagereview.com/news/amd-mi455x-and-helios-432gb-hbm4-72-gpu-racks-and-a-real-answer-to-vera-rubin
(※6)Investor’s Business Daily “AMD Stock Scores Price-Target Hikes On AI Computer News”(7月24日のAMD株とSOX指数の下落、目標株価の引き上げ)2026年7月24日
(※7)AMD “AMD Reports First Quarter 2026 Financial Results”(データセンター部門の売上高58億ドル、前年同期比57%増)2026年5月5日 https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1284/amd-reports-first-quarter-2026-financial-results
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