マンジャロ、薬価25%引き下げにリリー反発 Q2決算は48%増収
8月1日、マンジャロの国内薬価が25%引き下げられ、3日に日本イーライリリーが批判。一方、5日発表の米Eli Lilly決算では、同薬を中心に成長が続きました。
(本記事は公開情報に基づく分析および筆者の見解であり、正確性や完全性を保証するものではありません。特定銘柄の売買を助言・推奨するものでもなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。)8月1日、2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の日本における薬価が25%引き下げられました(※3)。8月3日には日本イーライリリーが公式声明を発表し、今回の決定を「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」と批判しました(※1)。
その2日後の本日8月5日、米Eli Lilly (LLY)が2026年4-6月期決算を発表しました。日本ではマンジャロの薬価や美容・痩身目的での使用をめぐって関心が高まる一方、本国の決算では、マンジャロを中心とする急成長が続いています。
今回のポイント
マンジャロは日本では美容・痩身目的での使用も広がり、厚生労働省が健康被害や個人売買に注意喚起
マンジャロの全6規格が8月1日から25%値下げ
Q2売上高は前年同期比48%増の230億ドル
マンジャロの売上高は91%増の99億ドル
画像取得時点の株価は5.37%高
日本でマンジャロが話題になっている
マンジャロは、日本では2型糖尿病の治療薬として承認されています。一方、近年はSNSやインターネット上で、美容・痩身目的でも注目されるようになりました。
厚生労働省は2026年6月、マンジャロなどの2型糖尿病治療薬について、美容・痩身・ダイエット目的で使用されるケースが増えていると注意喚起しました。こうした目的で使用した場合の安全性や有効性は確認されておらず、安易な使用は健康被害につながるおそれがあるとしています(※2)。
また、SNSやフリマサイトを通じた医薬品の個人間売買は違法です。正規ルート以外で入手した製品には、偽造品や品質が劣化した製品が含まれる可能性もあります。
こうした適応外使用への懸念が広がる中、8月からの薬価引き下げが新たな議論を呼びました。
マンジャロの薬価が25%引き下げ
厚生労働省の中央社会保険医療協議会は5月13日、マンジャロ皮下注の薬価引き下げを了承しました。適用は8月1日からで、全6規格の価格が従来の75%になりました。
例えば、5mg製剤は1本3,848円から2,886円へ、最大用量の15mg製剤は11,544円から8,658円へ引き下げられています(※3)。
適用されたのは「持続可能性特例価格調整」です。これは完全な新制度ではなく、従来の「市場拡大再算定の特例」を2026年度の薬価制度改革で改称・見直したものです(※4)。
マンジャロは、薬価収載から10年を経過しておらず、NDBに基づく年間販売額が1,000億円超1,500億円以下で、基準年間販売額の1.5倍以上という要件に該当しました(※3)。
制度上は、年間販売額が当初の予想を一定以上上回った医薬品の薬価を引き下げる仕組みです(※4)。
日本イーライリリーは異例の強い声明
日本イーライリリーは8月3日、今回の薬価引き下げを「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」と批判しました(※1)。
同社は、医薬品の上市後に予見しにくい形で大幅な価格調整が行われれば、日本市場の予見可能性が損なわれ、研究開発、製造、新薬投入などの投資判断に悪影響を与えると主張。「予見性の低い日本市場は国際投資先としての魅力を失う」と警告しています。
日本イーライリリーは2022年以降、神戸市の西神工場に270億円を投資してきました。
また、同社によれば、日本のマンジャロの薬価は引き下げ前からG7で最も低い水準にあり、改定後は同程度の経済規模を持つ国々の中でも最低水準になります。
低価格によって、不適正使用、医療ツーリズム、利益目的の買い占め、海外転売が増え、日本の2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性も挙げました。ただし、これらは日本イーライリリー側が声明で示した懸念であり、実際の影響は今後確認する必要があります。
Q2は市場予想を大幅に上回る
日本イーライリリーが薬価引き下げに反発する中、Eli LillyのQ2決算は市場予想を上回りました。
実際の売上高は前年同期比48%増の229.74億ドル。報告ベースのEPSは26%増の7.94ドル、非GAAPベースのEPSは33%増の8.38ドルとなりました(※5)。
イーライリリーは直近4四半期すべてでEPSが事前予想を上回っています。今回も好調な決算を継続した形です。
マンジャロは四半期で99億ドル
決算の中心となったのはマンジャロです。
マンジャロの世界売上高は前年同期比91%増の99.43億ドル。米国では45%増の約48億ドル、米国外では172%増の約52億ドルとなりました(※5)。
肥満症治療薬Zepboundも46%増の49.28億ドルを売り上げました。マンジャロとZepboundを合わせると、Lilly全体の四半期売上高の約65%を占めています。
米国外のマンジャロ売上高は、主に販売数量の増加によって伸びました。一方、中国で公的な医薬品償還リストに収載されたことに伴う実現価格の低下が、成長の一部を相殺しています。
Lilly全体の米国外売上高は80%増でした。その内訳は販売数量が113%増、実現価格が36%下落しています。これはマンジャロ単体ではなく、Lillyの米国外事業全体の数字です。
海外では価格が低下しても、販売数量の増加によって売上高を伸ばす構図が表れています。日本の25%引き下げも価格面では逆風ですが、影響を判断するには、値下げ後の処方量や販売数量を見る必要があります。
通期売上高見通しを引き上げ
イーライリリーは2026年通期の売上高見通しを、従来の820億~850億ドルから850億~870億ドルへ引き上げました。
非GAAP EPS見通しは35.50~36.50ドルと、従来の35.50~37.00ドルから上限が引き下げられています。ただし、会社によれば、基礎的な事業見通しの改善はEPS見通しの中間値を2.78ドル押し上げた一方、買収に伴う仕掛研究開発費が1株当たり3.03ドル押し下げました(※5)。
決算前から市場の期待は高かったものの、売上高とEPSがともに予想を上回り、通期売上高見通しも引き上げられたことで、成長継続への期待が改めて強まりました。
日本の薬価引き下げをどう見るか
今回の25%引き下げが、Lilly全体の業績を直ちに大きく揺るがす可能性は限定的と考えられます。マンジャロは世界で四半期約99億ドルを売り上げ、日本以外でも販売数量が急速に拡大しているためです。
一方、今回の問題は単なる国内価格の値下げではありません。
制度側には、想定以上に増加した薬剤費を調整し、医療保険財政を守る目的があります。製薬会社側から見れば、多くの患者に使用された結果として早期に価格が引き下げられれば、投資回収の予見可能性が低下します。
今後の焦点は、値下げ後の日本で処方量がどう変化するか、不適正使用や転売が増えるのか、同じ制度がほかの大型医薬品にも適用されるのかです。
今回の一件は、Lillyの短期的な株価材料というより、世界の医薬品市場における日本の位置づけを考える材料になりそうです。
参考文献
(※1)日本イーライリリー「マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明」、2026年8月3日
https://mediaroom.lilly.com/jp/previewPDF/2026/26-36_com.jp.pdf
(※2)厚生労働省「マンジャロ・リベルサスなどの2型糖尿病治療薬の美容・痩身目的での使用による健康被害にご注意ください」、2026年6月
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/index_00003.html
(※3)厚生労働省「市場拡大再算定及び持続可能性特例価格調整の対象品目について」、中央社会保険医療協議会総会、2026年5月13日
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699504.pdf
(※4)厚生労働省「令和8年度薬価制度改革について」、2026年3月5日版
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001696834.pdf
(※5)Eli Lilly and Company, “Lilly reports second-quarter 2026 financial results, raises full-year guidance, and highlights continued growth and pipeline progress,” August 5, 2026
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